令和8年安全衛生部長年頭所感

年頭所感

厚生労働省労働基準局
安全衛生部長 安井 省侍郎

 謹んで新春のお慶びを申し上げます。令和8年の年頭に当たり、改めて日頃の労働安全衛生行政への御理解と御協力に感謝申し上げます。

 林業・木材製造業における労働災害の発生状況をみると、死亡者数が35名と前年より3名減少しており、休業4日以上の死傷者数も2,192名と前年より22名減少しておりますが、未だに多くの方が亡くなられており、引き続きの対策が求められています。

 なお、全産業でみると、死亡者数は長期的に減少傾向にあり、令和6年には746人と過去最少となったものの、休業4日以上の死傷者数は増加傾向にあり、令和6年には135,718人と4年連続で増加しています。

 死傷災害の増加の背景には、高年齢労働者の労働人口に占める割合の増加を続けていることと、高年齢労働者の労働災害発生率が年齢に応じて高くなっていくことが挙げられます。近年増加を続けている外国人労働者の災害発生率が平均より高いことも懸念材料です。第14次労働災害防止計画では、こうした状況を踏まえた対策の重点事項を定め、国と事業者等が連携して取り組んでいくこととしています。引き続き、皆様方のご協力をお願い申し上げます。

 また、多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するための改正労働安全衛生法等が昨年5月に成立・公布されました。内容は大きく5点あり、1つ目は、個人事業者等に対する安全衛生対策の推進です。労働者と同じ場所で作業を行う個人事業者等による災害の防止を図るため、注文者等や個人事業者等自身が講ずべき措置を定めることとしました。
 2つ目は、職場のメンタルヘルス対策の推進です。ストレスチェックの実施義務の対象を労働者数50人未満の事業場に拡大することとしました。
 3つ目は、化学物質による健康障害防止対策等の推進です。危険性・有害性情報の通知義務違反に対する罰則の強化等を行うこととしました。
 4つ目は、機械等による労働災害の防止の促進等です。ボイラー、クレーン等に係る製造許可の一部や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲の拡大等を行うこととしました。
 5つ目は、高齢者の労働災害防止の推進です。高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施を事業者の努力義務とし、国が当該措置に関する指針を公表することとしました。

 また、令和7年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法においては、事業主に対し、職場における治療と仕事の両立を促進するため必要な措置を講じることを努力義務とすること等としました。

 これらの改正事項については、本年4月1日を中心に段階的に施行されることとなっており、厚生労働省では、その円滑な施行に向けて、政省令や指針等の整備を進めてまいります。皆様におかれましても、改正内容の周知にご協力をお願いいたします。

 また、近年の夏季の平均気温の上昇に伴い、熱中症が増加傾向にあり、令和6年の熱中症による死亡者数は31人に達しました。このため、昨年6月に、熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための体制の整備等、熱中症対策の強化を内容とする労働安全衛生規則の改正を行いました。関係者の皆様には、引き続き、的確な対応をお願いいたします。

 これら法令改正がなされましても、各事業場において実践されなければ、労働災害の防止には繋がりません。しかし、単に法令遵守だけでよい、ということになると、「法令で義務付けられているからやる」、「法令で義務付けられていなければやらなくてよい」、もっといえば、「法令違反が見つからなければよい」となり、肝心の労働安全衛生水準の向上という目的が忘れ去られてしまいます。

 林業は、災害は減少しつつあるものの、度数率では他産業と比較して高い状況が続いています。

 労働安全衛生法令で規定されている内容は、最低基準に過ぎません。「一人ひとりカケガエノナイひと」というゼロ災の理念を今一度ご確認いただき、「法令違反になるかどうか」に心を奪われることなく、自分の職場で、一緒に働く仲間を失う悲劇を決して起こさないという強い想いで、安全衛生水準の向上に取り組んでいただきたいと思います。

 貴会会員皆様方の職場の今年一年の無災害をお祈り申し上げ、新年の挨拶とさせていただきます。