メニュー

Ⅱ 振動障害の予防措置(チェーンソー)

チェーンソー業務従事者の振動障害を予防するうえで必要な事項については、厚生労働省労働基準局通達「チェーンソー取扱い作業指針について」(平成21年7月10日付け基発0170第1号)により指導が行われています。この通達の要点を軸に、予防対策を述べます。

1 チェーンソーの選択

  1. 防振機構内蔵型で、かつ、振動及び騒音ができる限り小さいものを選ぶこと。
    チェーンソーについては、労働安全衛生法第42条の規定により規格(昭和52年9月29日労働省告示第85号「チェーンソーの規格」)が定められています。これにより、昭和52年10月1日以降、新たに製造され又は販売される排気量40cm3以上のチェーンソーは、

    1. 振動加速度の最大値が、29.4m/sec・sec(3G)以下のものであること
    2. ハンドガードを備えていること
    3. キックバックによる危険防止装置を備えていること

    等の条件を満たしていなければならないことになっています。

    現在市販されているチェーンソーは、振動値が上記の基準である3G以下ですが、振動と騒音の測定値が「林業用手持機械の振動・騒音測定規定」により測定され、これらの測定値は、チェーンソーの見やすい個所に、形式や製造番号とともに表示されています。
    また、チェーンソー等の振動工具の製造事業者・輸入事業者は、厚生労働省通達「振動工具の「周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値」の測定、表示等について」(平成21年7月10日付け基発0710第3号)により、振動工具に「周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値」を表示するよう指導されています。
    チェーンソーは逐年改良が進み、振動値の小さい機種が開発されています。これらの公表値を参考にして、振動と騒音ができるだけ小さいものを選ぶことが大切です。

  2. できる限り軽量なものを選び、大型のチェーンソーは、大径木の伐倒等止むを得ない場合に限って用いること。
    チェーンソーは、全重量を手腕で支えるものであり、少しでも軽いほうが単に疲労の面ばかりでなく、振動障害予防の面でも好ましいわけです。
    特に直径の大きい立木を伐倒するときは、大型のチェーンソーが必要となりますが、それ以外の場合は、できるだけ小型のチェーンソーを使用することが適切です。
  3. 伐木造材を行う立木の径に適合したガイドバーの長さをもつ機種を選定すること。
    一般的に、大型のチェーンソーは長いガイドバーを、小型のチェーンソーは短いガイドバーが、それぞれ標準のガイドバーとして指定されています。
    これは、エンジンの出力、操作性などを勘案して設計されていることによります。標準のものより長いガイドバーを装着すると、エンジンの回転が落ち、鋸断能力が低下して身体が疲れるばかりでなく、重心の位置が片寄って振動の伝わる度合いが増しますので、避ける必要があります。

2 チェーンソーの整備

  1. チェーンソーは定期的に点検整備し、常に最良の状態を保つようにすること。
    チェーンソーに限らず、工具を使用する際は、故障を防ぎ、できるだけ長持ちさせるため、また、労働災害防止のため、点検整備を十分に行うことは、当然のことです。また、チェーンソーの振動の大きさは、チェーンソーの整備状況と密接な関係があります。特に、ネジ類のゆるみや脱落があれば、災害につながるばかりでなく、通常では起きない異常な振動が加わることとなります。振動障害予防の面でも、点検整備を励行することが大切です。
    チェーンソーの点検は、毎日の点検、毎週の点検、毎月の点検の3段階で、所定の点検項目について行うことが必要です。また、点検時に異常を認めたときは、直ちに補修その他適切な処置をとり、チェーンソーを最良の状態で使用できるようにすることが大切です。
  2. ソーチェーンは、適時に目立てを行い、予備のソーチェーンを作業場所に持参して適宜交換する等、常に最良の状態で使用すること。
    振動障害予防のために、ソーチェーンの目立てが大切です。
    チェーンソーは、手のこと比べて多少目立てが悪くてもエンジンの出力で切れます。このことから、正しく目立てされず、目立てが十分でない状態で使用されることがあります。目立ての正しい技術を身につけるよう努めましょう。また、切れ味が落ちてきたときは、手まめに目立てをすることが、振動障害予防上からも、作業能率の点からも必要なことといえます。また、予備のソーチェーンを作業場所に持参し、形くずれ、損傷などがあったときは交換することが必要です。

3 作業の進め方

  1. 下草払い、小枝払い等は、手のこ、なた等の手工具を用い、チェーンソーの使用をできる限り避けること。 伐採前に伐倒する立木の周囲の小径木、かん木、笹など、作業の支障となるものは取り除く、足場作りが必要です。この作業をチェーンソーで処理しているのが見受けられますが、これらの準備的、間断的な作業については、なた、手のこ等の手工具で処理し、チェーンソーの操作時間をできる限り短縮することが、振動障害予防上必要です。
  2. チェーンソーの操作時間は、使用するチェーンソーによって、1日当たりどれくらいの振動量(日振動ばく露量A(8)といいます。)にさらされるか、その値が大きいか、小さいかで管理し、振動ばく露時間の上限値が2時間を超える場合は、当面、1日の振動ばく露時間を2時間以下とすること。

    1日当たりさらされる振動量(日振動ばく露量A(8))は、チェーンソーに表示された振動の大きさ(周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値)と振動にさらされる時間(振動ばく露時間)から求めます。どれくらいのA(8)であれば、どれくらいのばく露時間が可能かが分かります。1日のばく露時間の上限は、日振動ばく露限界値(5.0メートル毎秒毎秒(m/s2))に対応した1日の振動ばく露時間(振動ばく露限界時間)で示されます。その時間が2時間を超える場合は、当面、1日の振動ばく露時間を2時間以下とします。

    (注1)周波数補正振動加速度実効値:振動工具のすべての振動に対し、人体に影響を与える周波数帯域を抽出し、それらについて周波数毎に補正を行い、人体への影響を与える振動の強さとして表した振動値
    (注2)3軸合成値:あらゆる方向に揺れている振動を前後、左右、上下の3方向に分けて測定し、これを合成して得られた振動値
    (注3)日振動ばく露量A(8)等については次を参考にして下さい。
    厚生労働省の「振動障害予防のために」(パンフレット  9.4MB
    「日振動ばく露量A(8)の計算テーブル」(XLS  51KB
    「日振動ばく露量A(8)の対数表」(PDF  191.2KB
    (注4)「当面2時間以下」については、厚生労働省通達「チェーンソー取扱い作業指針」3(2)ウに定められています。

    集運材等他の作業を計画的に組合せ、チェーンソーを取り扱わない日を設けるなどの方法により、1週間のチェーンソーの振動ばく露時間を短縮するようにします。作業地での移動はもちろん、作業中でもチェーンソーを使用しないときは、こまめにエンジンを停止するなどして、ばく露時間が2時間以下となるようにします。 間伐、広葉樹小径木などの伐倒作業では、ばく露時間が長くなりがちですので、手工具による作業又は他の作業と組合わせて、2時間以下となるよう工夫することが必要です。また、チェーンソーを使わない他の作業との組合せなどにより、操作しない日を工夫して設けることを通じて、週単位でのチェーンソー振動ばく露時間を短縮するように努めます。

  3. 振動の大きなチェーンソーを用いる場合は、日振動ばく露量A(8)が日振動ばく露限界値(5.0m/s2)を超えないように1日のばく露時間を短縮すること。
    特に、大型のチェーンソーを用いる場合は、注意が必要です。近年、チェーンソーの軽量化と性能向上が進んだことから、通常の伐採では、大型の振動の大きなチェーンソーを用いることは少なくなりました。しかし、大径木の伐採では大型のチェーンソーを用いる場合があるので、この場合は、ばく露時間の管理に注意が必要です。
  4. チェーンソーの一連続ばく露時間は、長くても10分以内とすること。
    どのような作業でも、長時間、同一の作業を連続すると、使用する筋肉を疲労させるので、適当な他の作業を行うか、休みをとるなどして疲労を回復することが良いとされています。同様の考えで、振動障害予防対策の一つとして、チェーンソーの一連続ばく露時間の限度が定められており、一連続ばく露時間は長くても10分以内となっています。
  5. チェーンソーを無理に押しつけないように心掛けること。また、チェーンソーを持つときは、肘や膝を軽く曲げて持ち、かつ、チェーンソーを材にもたせかけるようにして、チェーンソーの重量をなるべく材で支え、チェーンソーを支える力が少なくてもすむようにすること。

    正しい姿勢でチェーンソーを操作すれば、手腕に伝わる振動は少なく、筋肉の疲労も軽減され、作業能率も向上します。チェーンソーは、チェーンソーの構造からして、押しつけても早く切れるものではありません。無理に押しつけることなく、スパイクを使用するなどして、チェーンソーの重量を材にあずけるようにすることが必要です。

  6. 移動の際は、必ずエンジンを止めること。
    チェーンソー作業は、作業場所の移動の回数が多いことから、移動の際はエンジンを必ず止めることを励行し、チェーンソーの振動ばく露時間の短縮と、一連続ばく露時間の制約を守るようにしましょう。
  7. 高速の空運転は、極力避けること。 無負荷で高速の運転は、手腕に伝わる振動の面で好ましくないばかりでなく、エンジンの故障にもつながりますので、避けるようにします。

4 作業上の注意

  1. 雨の中の作業等、作業者の身体を冷やすことは、努めて避けること。
    振動障害は、振動のみでなく種々の因子が複雑に作用して発生するとされています。なかでも寒冷の刺激を受けることは、症状を進展させることとなり、良くないとされています。したがって、身体を冷やすような雨中の作業や寒冷時の作業では、衣服に留意し、休憩時には暖房のある施設を使用するなど、暖かくすることが大切です。
  2. 防振、防寒に役立つ厚手の手袋を用いること。
  3. 作業中は、軽く、かつ、暖かい服を用いること。
  4. エンジンをかけているときは、耳栓を用いること。
  5. 寒冷地における休憩は、できる限り暖かい場所でとるように心掛けること。

5 体操の実施

作業開始時及び作業終了後に、手、腕、肩、腰等の運動を主体とした体操を行うこと。なお、体操は、作業中も時々行うことが望ましい。
肘、手、指の屈伸、首、肩の回転、腰の曲げ伸ばしを主体とした体操又はマッサージを行うことは、筋肉の疲労の回復、労働災害の防止、作業能率の向上の面ともに、振動障害の予防面で極めて効果があるとされています。

6 通勤の方法

通勤は、身体が寒さにさらされないような方法をとり、オートバイ等による通勤はできる限り避けること。
オートバイによる通勤は、身体を冷やすほか、ハンドルから伝わる振動によって、振動障害を誘発する原因にもなります。オートバイによる通勤は、避けるようにして下さい。

7 日常生活の注意事項

振動障害の予防には、適正な日常生活が前提といえます。次の事項に、十分留意した日常生活を送ることが必要です。

  1. 防寒・保温等に対する配慮
    寒冷刺激、特に全身を寒冷にさらすことは、単に寒いばかりではなく、四肢の血液の循環を悪くすることとなります。次の点に心掛けることが大切です。
    1. 住居の防寒や保温をよくし、衣服の調整に注意すること。
    2. 戸外では、カイロを携帯することや温かい飲食物をとるようにすること。
    3. オートバイ運転等の振動刺激は避けること。
    4. 海水浴、寒冷時における釣りや狩猟等全身を冷やすことはさけること。
  2. 栄養に対する配慮
  3. 体操、入浴、乾布摩擦、マッサージ
  4. 喫煙の禁止
    喫煙は、末梢血液循環には、最も有害なものの一つとされています。