Ⅲ 振動障害の予防措置(刈払機)
1 刈払機の選定
- 刈払機は、林業の作業に適した機種を使用すること。
- 内蔵されているエンジンは、振動ができる限り小さいものを選ぶこと。
刈払機等の振動工具について、その製造業者・輸入業者は、厚生労働省通達「振動工具の「周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値」の測定、表示等について」(平成21年7月10日付け基発0710第3号)により、「周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値」を表示することになっています。これらの数値を参考に選ぶことが大切です。 - ハンドル又は操作桿が、防振ゴム等の防振材料を介してエンジン部に取り付けられている等、振動がハンドル又は操作桿に伝達しにくいものであること。
- 握り部は、厚手で軟質のゴム等の防振材料で覆われていること。
- 吸排気に伴って発生する騒音を軽減するためのマフラーが装着されているものであること。
2 刈刃等
- 刈刃は、丸のこ刃又はこれと同等の性能と安全性を有するものを選ぶこと。
- 刈刃等の取付には、機械についている専用工具を使用し、確実に取り付けたことを確認して、使用すること。
3 刈払機の整備
- 刈払機は定期的に点検整備し、常に最良の状態を保つようにすること。また、それを職務とする「振動工具管理責任者」を選任すること。
- 刈払機に限らず、工具を使用する際には、故障を防ぎ、できるだけ長持ちさせ、また、労働災害を防止するため、点検整備を十分に行うことが大切です。
- 刈払機の振動の大きさは、その整備状況と密接な関係があります。特に、ネジ類のゆるみや脱落があれば、異常な振動が加わることになり、労働災害につながることにもなります。振動障害予防の面からも、点検整備の励行が大切です。
- 刈払機の点検は、毎日の点検、毎週の点検、毎月の点検の3段階で、所定の点検を行うことが必要です
- 点検時に異常を認めたときは、直ちに補修その他適切な処置をとり、刈払機を最良の状態で使用できるようにしておくことが大切です。
- 刈払機の刃は、適時に目立てを行い、予備の刃を作業場所に持参して適宜交換する等、常に最良の状態で使用すること。
- 振動障害予防のために、刈刃の目立てが大切です。
- 刈払機は、手がまに比べ刈刃の目立てが多少悪くても動力で切れることもあって、正しい目立てが行われず、また目立てが十分でない状態で使用されることがあります。刈刃の正しい目立て技術を身につけるように努力しましょう。
- 振動障害の予防だけでなく、作業能率の向上の面からいっても、切れ味が落ちてきたときは、手まめに刈刃の目立てをすることが必要です。また、予備の刈刃を作業場所に持参し、刃が欠ける、あるいはひびが入るなどしたときは交換することが必要です。
4 刈払機の作業時間
- 刈払機の使用にあたっては、それ以外の作業と組み合わせて、刈払機、その他の振動工具の取扱作業に従事しない日を設けること。
- 刈払機の操作時間は、使用する刈払機によって、1日当たりどれくらいの振動量(日振動ばく露量A(8)といいます。)にさらされるか、その値が大きいか、小さいかで管理し、操作時間の上限値が2時間を超える場合は、当面、1日の振動ばく露時間を2時間以下とすること。
- 1日当たりさらされる振動量(日振動ばく露量A(8))は、刈払機に表示された振動の大きさ(周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値)と振動にさらされる時間(振動ばく露時間)から求めます。
- どれくらいのA(8)であれば、どれくらいの操作時間が可能かが分かります。1日の操作時間の上限は、日振動ばく露限界値(5.0メートル毎秒毎秒(m/s2))に対応した1日の振動ばく露時間で示されます。その時間が2時間を超える場合は、当面、1日の振動ばく露時間を2時間以下とします。(振動ばく露限界時間は、「チェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針 (1.2MB)」の式又は表から求めることが出来ます。)
- 振動障害予防対策の基本は、刈払機の振動に対し、身体に与える影響が出来るだけ少なくなるよう、振動にさらされる時間(振動ばく露時間)を適切に管理することが必要です。
- (注1)周波数補正振動加速度実効値:振動工具のすべての振動に対し、人体に影響を与える周波数帯域を抽出し、周波数毎の補正を行い人体への影響を与える振動の強さとして表した振動値
- (注2)3軸合成値:あらゆる方向に揺れている振動を前後、左右、上下の3方向に分けて測定し、これを合成して得られた振動値
- (注3)「当面2時間以下」については、前述の指針に定められています。
- 振動ばく露時間を短くするため、刈り払っているとき以外はエンジンを止めます。
- 刈払機による刈り払い時間が長くなるおそれがあるときは、かま等の手工具による作業と組み合わせるようにします。
- 刈払機の一連続操作時間は、おおむね30分以内とし、一連続作業時間の後、5分以上の休止時間を設けること。
- どのような作業でも、長時間、同一の作業を連続すると、使用する筋肉を疲労させるので、適当な他の作業を行うか、休みをとるかなどにより疲労を回復させることがよいとされています。
- さらに、振動障害予防対策の1つとして、刈払機の一連続操作時間の限度が定められており、一連続作業時間は長くてもおおむね30分以内となっています。一連続操作後の休止時間が極めて短時間では意味がないわけで、少なくとも5分以上の休止時間を設けることを定めています。
- 刈払機のハンドルは、軽く握るように操作すること。
- エンジンを高速にしての空運転は、極力避けること。
- ハンドルを強く握って操作すると、手腕の筋肉に力が入り、振動の伝わる度合いが大きくなります。作業中は、ハンドルを軽く握り、ひざ、腰を使ってバランスのとれた姿勢で行います。
- 高速空運転は、手に伝わる振動が大きいばかりでなく、エンジン故障につながります。
5 作業上の注意
- 雨にぬれる状態での作業等、作業者の身体を冷やすことは、できるだけ避けること。
○振動障害は、振動のみでなく、種々の要因が作用して発症するとされていますが、なかでも寒冷の刺激は症状を進展させます。雨中の作業や寒冷時の作業は身体を冷やすので、衣服に注意し、休憩時には暖房のある施設を使用するなど、暖かくすることが大切です。 - 作業には、防振、防寒に役立つ軟質で厚手の防振手袋を用いること。
- 作業中は、軽く、暖かい服を着用すること。
- 寒冷地における休憩は、できる限り暖かい場所でとるよう心掛けること。
- 刈払機のエンジンをかけているときは、耳栓やイヤーマフを使用すること。
○騒音も振動障害の発症を促進する因子の1つとされています。 - オートバイによる通勤は、できるだけ避けること。
- 作業開始時及び作業終了後に、手、腕、腰等の運動を主体とした体操を行うこと。体操は、作業中も時々行うことが望ましいこと。
- ひじ、手、指の屈伸、首、肩の回転、腰の曲げ伸ばしを主体とした体操、又はマッサージを行うことは、筋肉の疲労の回復、労働災害の防止、作業能率の向上の面ばかりでなく、振動障害の予防にも極めて効果があるとされています。
- 作業開始前には、体操を行います。朝体操をすることにより、その日の体調を知ることも大切なことです。
6 日常生活の注意事項
振動障害の予防には、より健全な日常生活を送ることが前提といえます。次の事項に十分注意して、健康的な日常生活を送るようにしましょう。
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防寒・保温等に配慮すること。
寒冷刺激、特に体を寒さにさらすことは、単に寒いばかりでなく、四肢の血液の循環を悪くするので、次の点に心掛けることが大切です。- 住居の防寒や保温をよくし、衣服の調節に注意します。
- 戸外では、カイロを携帯することや、温かい飲食物をとるようにします。
- オートバイや耕耘機の運転等の振動刺激を避けるようにします。
- 海水浴、寒冷時における釣りや狩猟等全身を冷やすことはできるだけ避けるようにします。
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その他健康的な生活習慣を身につけること。
- 栄養に配慮しましょう。
- 体操、入浴、乾布摩擦、マッサージ等を励行しましょう。
- 喫煙を控えましょう。
喫煙は、末梢血液循環を悪化し、振動ばく露による循環障害を一層悪化させるといわれています。